被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト


グリーンITが目指すべきエコロジーとエコノミーの両立
(CIO Magazine 2009年3月号より)

「ITによるエコ」が企業にもたらす経済効果に着目せよ

今日の企業には、地球環境の保全に対する社会や市場の要請を社会的責任と受け止め、事業活動を通じて環境保全に配慮し行動する姿勢が問われている。その行動の中でITにかかわる領域はグリーンITと呼ばれるが、そこにおいてIT部門がなすべき取り組みは、大きく「ITのエコ」と「ITによるエコ」に分けられる。本稿では、後者のITによるエコにスポットを当て、その実践にあたってIT部門がなすべきこと、ならびにその効果的なアプローチについて提言する。

内山悟志 ● text by Satoshi Uchiyama アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト


企業経営における環境保全活動への動機づけ

 1982年のナイロビ会議、1989年のモントリオール議定書、1997年の京都議定書などを経て、地球環境の保全に対する関心は世界規模で高まりを見せている。特に、地球温暖化問題が顕在化したことで、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出を規制する動きが求められ、地域/国レベルで環境関連法や条例などの整備が進んでいる。

 地球環境の負荷軽減は企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の1つであり、法令順守のためや国際市場への参加資格として、顧客や地域市場への訴求といった点からも取り組まなければならない必須の課題だと言える。しかし、こうしたCSRの観点からだけで、企業が積極的に取り組む動機づけが維持され、一定の投資が許容されるかと言えば、それだけでは不十分である。企業は競争環境の中で事業を展開しているのであり、安定的な財務基盤が維持されなければ、社会的責任を十分に果たす余裕など生まれないはずだ。また、必須の課題として最低限の対応をするだけでは、後で述べる副次的な効果を得ることもかなわない。義務的な姿勢での取り組みでは、活動を定着させることは難しいのである。

 企業活動では、常に経済合理性が追求されて、地球環境保全に対するさまざまな施策や取り組み、あるいはその活動の過程においても、業務の効率化やコスト削減といった収益への貢献が求められるのである。

 すなわち、エコロジー(環境負荷軽減)とエコノミー(経済合理性)という2つのエコを両立させていかなければならないわけだ。そして、2つのエコには、相反する利害関係が成立する場合があるため、両者のバランスを考慮して取り組むことが必要になる。

「ITのエコ」と「ITによるエコ」

 地球環境の保全、負荷軽減に向けた企業活動におけるCIOの重要な責務は、もちろんグリーンITの推進である。このグリーンITの取り組みは大きく、「ITのエコ」(Green of IT)と「ITによるエコ」(Green by IT)に分けられる。前者は、自社のIT関連機器の運用において電力消費量の低減や温室効果ガスの発生を抑制するといった、直接的な環境負荷軽減を目指す取り組みであり、後者は、ITを活用することによって事業活動における環境負荷軽減を目指す取り組みである。

 ITのエコは、言うまでもなくユーザー企業のIT部門が主体的に取り組むべき課題であり、ITに費やす資源に閉じた有限の効果が期待される。現時点で、ITベンダー、特にハードウェア・ベンダーが発するメッセージではITのエコが中心となっており、PCやサーバ、ストレージ、ネットワーク機器などの省電力化やデータセンターの省電力化、熱効率向上が主たるテーマとなっている。

 一方、ITによるエコは、IT部門と業務部門が協力して取り組むべき課題であり、その効果は、全社的またはバリュー・チェーン全体に広がる可能性を秘めている。業務プロセスやワークスタイルを変革することで、ヒトやモノの移動を減らしたり、省スペース化やペーパーレスなどを促進し、その結果として環境の負荷軽減に寄与しようという活動である。

 グリーンITを推進するうえでのIT部門の役割を考えると、直接的には、ITのエコにおいてイニシアチブを発揮することが求められるが、今後はそれにとどまるのではなく、業務部門に能動的に働きかけることにより、ITによるエコへの取り組みを主導することも重要な任務となってこよう。そこで以下では、ITによるエコについてさらに掘り下げて考えてみたい。

ITによるエコの4つの領域

 ITによるエコとしてIT部門が実施することのできる具体的な施策は多岐にわたるが、大きくは、(1)ヒトの移動の削減、(2)省スペース化、(3)ペーパーレス、(4)モノの移動の削減という4つの領域に分類することができる(図1)。

1:ITによるエコの領域


 (1)と(4)は、主に自動車・航空機といった輸送機械のエネルギー燃料の利用によって排出される温室効果ガスの低減に寄与することになる。(2)は、主に電力などのエネルギー使用量を削減する効果がある。(3)は、主に紙の消費量を削減する施策であり、森林伐採による影響の軽減と共に、紙資源の輸送・廃棄などに消費される燃料や排出されるCO2の削減にもつながる。

 これら4つの領域には互いに重なり合う部分が存在しており、ある1つの具体的な施策によって同時に2つの領域の目的が達成されるケースもありうる。例えば、遠隔会議の導入は、会議のために各地から集まるヒトの移動の削減を実現すると同時に、会議室スペースの削減によって省スペース化に寄与し、さらには配布資料を電子化することでペーパーレスにも貢献するといった具合だ。以下で、これら4領域に対して有効であると思われる施策/ITソリューションについて詳しく説明することにしたい。

(1)ヒトの移動を削減する施策/ITソリューション

 ヒトの移動の削減には、まず、ブロードバンド・ネットワークによるユビキタス・オフィスの実現が大きく貢献すると考えられる。ユビキタス・オフィスとは、自宅、ホテル、サテライト・オフィス、他の事業所、顧客先、移動中の車内など、あらゆる場所からネットワークを介して業務を遂行することが可能な環境を指して言う言葉だ。

 都市集中型の経済社会では、通勤が大半の従業員にとって少なからず負担となっており、自宅と会社の往復で毎日発生する自動車や電車のエネルギー燃料の消費はかなり大きい。そこで、在宅勤務やサテライト・オフィス、移動中のモバイル・ワークなど、どこにいても仕事ができる環境を整えて従業員に提供できれば、ヒトの移動を大幅に削減することが可能になる。

 また、事業の全国展開やグローバル化が進んでいる企業においては、従業員が国内外の事業所に出張したり取引先を訪問したりする機会が多い。電子的な情報伝達や遠隔会議などを利用することによって訪問・出張の回数を減らす試みは、グリーンITだけでなく、経費削減や業務効率の向上を図るための有効な施策として、多くの企業が取り組んでいる。

 ユビキタス・オフィスには、従来はネットワークの帯域、信頼性およびセキュリティなどの点で不便さや不安が伴っていたが、セキュアで高速なネットワークやユニファイド・コミュニケーションといった技術が進展したことで現実的な選択肢となってきた。

(2)省スペース化を実現する施策/ITソリューション

 オフィス・スペースの削減は、ランニング・コストとして日々かかってくる施設内の冷暖房による電力消費量に多大な影響を及ぼす。また、前述した在宅勤務やユビキタス・オフィスの実現もスペースの削減に寄与することになる。

 近年、従業員が固定の席ではなく、オフィス・スペース内の任意の席について仕事をするという「フリー・アドレス」制を採用する企業が増えているが、この考え方はオフィス賃借料の高い日本で発祥したと言われている。フリー・アドレス制を導入する際に利用されるIT設備としてはIP電話、無線 LAN、ノートPCなどがあり、デスクトップPCをそのまま利用する場合は、シン・クライアントやアプリケーション仮想化などの技術によってデスクトップ環境を統一し、どのPCからログインしても個々の従業員の作業環境が得られるようにすることが要件となる。

 このフリー・アドレス制を自社に導入するにあたっては、オフィス・スペースの削減というねらいだけでなく、オフィス用紙の節減や従業員間のコミュニケーションの円滑化、創造的活動の支援といった効果も併せて検討し、ワークスタイルの革新を全体的な目標として設定することが重要である。さらに、セキュリティやプライバシーのリスク、固定的な居場所を持たないことによる不安感といったマイナス要素にも配慮することが求められる。

 そのほか、長期保存が求められる紙文書の電子化による保管スペースの削減や、データ連携や分析に基づく調達・在庫・物流の最適化で実現される原材料、仕掛りおよび在庫の保管スペースの削減などの施策も省スペース化の一翼を担うことになる。

(3)ペーパーレスを実現する施策/ITソリューション

 ペーパーレスは、情報化の進展と共に長年取り組まれてきた課題であり、帳票や伝票の電子化という意味では、コンピュータの業務活用の長い歴史の中でも重要な部分を占めるものだと言える。単に文書・帳票類の電子化によって紙が削減されるばかりでなく、その作成から回覧、配布、保管、廃棄に至るまでの作業の軽減や保管スペースの削減など、多くの効果が期待される。加えて、申請や承認にまつわる業務プロセスの効率化やスピードアップにも寄与する。

 全国に多数の店舗、販売代理店、サポート拠点を持つ企業では、商品カタログや保守図面、マニュアル類などの書類を多額のコストをかけて印刷・製本するだけでなく、各拠点に配送・配布してきた。これを文書ファイルによるオンライン配布に切り替えることで、紙や輸送の量を大幅に削減することが可能になる。さらに、配布自体をやめて、1カ所のサーバに保管された文書ファイルを各拠点からオンラインで参照させる形態をとることで、文書の一元的な更新・差し替え・追加が可能になり、常に最新の情報を提供することができるようになる。

 2005年4月施行のe-文書法によって、取引先から受領した契約書や見積書、注文書、請求書などを含む多くの文書の電子保存が認められたことや、デジタル複合機が高機能化していることともあわせて、今後、ペーパーレスに向けた施策はさらに進展するものと予想される。

(4)モノの移動を削減する施策/ITソリューション

 主に製造業や流通業では、調達(仕入れ)や出荷などのプロセスにおいて車両などによる輸配送を日々行っている。これらの業種の企業がモノの移動を削減するためには、需要に基づく最適な調達、中間在庫や流通在庫の低減、輸配送の効率化などサプライチェーン全体を最適化し、移動するモノの量を最小化すると同時に滞留時間を低減する取り組みが求められる。また、最適量を生産することで産業廃棄物の排出量を削減したり、品質向上により返品率を低減させたりすることで、往復の物流量を削減することも有効な取り組みとなる。

 TMS(Transportation Management System)の高度化により、トラック輸送のルート最適化、燃料の最小化、積み下ろし作業の極小化などが図られ、作業時間が短縮されることも、ITによるエコに寄与すると考えられる。また、ITを活用した綿密なスケジューリングや情報共有によって、企業の枠を超えた共同配送を実現することも模索されている。

 さらに、資源の循環活用を実現するための試みとしては、使用済み製品、旧式商品、容器包装物などを有価資源として分別回収し、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)、産廃物の発生抑制(Reduce)の「3つのR」を可能とする循環物流の重要性が叫ばれている。現在、これに向けては、メーカー、販売会社、サービス会社、物流会社、リサイクル拠点、処理業者間の緊密連携を可能にするリバース・ロジスティクスを視野に入れた情報ネットワーク・システム構築の取り組みが進められており、その過程で、RFIDを活用したクレート(通箱)やパレットの循環管理などの事例も登場している。

エコロジーがもたらすエコノミー

 最後に、ユーザー企業のグリーンIT施策を実のある取り組みにするうえで欠かせない、ITによるエコの推進がもたらす経営上の効果について考えてみたい。

 環境負荷軽減に向けた活動や、ITによるエコにおける施策の直接的な狙いはCSRをまっとうすることにほかならないが、冒頭でも述べたように、 CSRだけでは経営における積極的な動機づけとはなりにくい。そこで、ITによるエコを推進する過程やその結果において収益の向上や経済合理性の追求に結びつくような、いくつかの間接的/副次的効果に着目する必要が生じる。

 そもそも、企業が環境保全に全社的に取り組むということは、顧客や株主などのステークホルダーに対する自社のイメージアップを促し、株価や売上げアップに間接的に貢献する。また、省スペース、ペーパーレス、ヒトやモノの移動の削減に向けた取り組みは、家賃地代、消耗品費、電力利用料、交通費、輸送・運搬費といった損益計算書にも表れる直接的なコストの削減につながる。さらには、ITによるエコを目指したワークスタイル革新やビジネス・プロセスの刷新の実現により、業務効率の向上やワーク・ライフ・バランスの実現といった副次的効果も期待される。このうち、業務効率の向上とワーク・ライフ・バランスの実現という2つの副次的効果については、以下でもう少し掘り下げて見ておくことにしたい。

副次的効果(1):業務効率の向上

 ITによるエコに属する活動・施策がもたらす副次的効果の1つが業務効率の向上である。逆の視点から見ると、紙文書の電子化やワークフローによる電子申請・承認といった情報化への取り組みの多くが、そもそも業務の効率、品質、スピードの向上を目指したものであり、これらによって実現されるペーパーレスや省スペース化は、同時にITによるエコに貢献しているという見方もできる。

 例えば、ある住宅設備メーカーは、営業部門の業務プロセス改革を推進する過程でエリア営業や直行直帰などを可能とする制度を取り入れた。その結果、営業部員の移動距離および移動時間が短縮され、訪問効率が増して顧客との対面時間を十分にとれるようになり、売上げアップに大きく貢献することになったという。また、あるグローバル企業では、遠隔会議の導入により、出張の交通費や宿泊費の節約、移動時間の短縮が可能となっただけでなく、経営の意思決定の迅速化にもつなげることができたという。

 このように、ITによるエコに向けた施策が、一石二鳥さらには一石三鳥の効果をねらえるものであるということを経営陣が理解することで、活動はより本格化することになろう。

副次的効果(2):ワーク・ライフ・バランス

 もう1つの副次的効果として、ワーク・ライフ・バランスが挙げられる。「仕事と生活の調和」とも訳されるワーク・ライフ・バランスは、ひとりひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、各自の業務責任を果たすとともに、それぞれの家庭や地域生活などにおいても、多様な生き方が選択・実現可能な社会を指す概念である。

 これまで、グリーンITとワーク・ライフ・バランスを結び付けて考える機会は少なかったように思われる。しかし、テレワークの推進で通勤負荷が軽減されると同時に業務効率も高まり労働時間が短縮されるといった例が示すように、ITによるエコとワーク・ライフ・バランスのための施策には共通点が多い。つまり、従業員個々の生活を大切にした「人に優しい」働き方は、地球環境にも優しいということが言えるのだ。

 さらには、従業員満足度の向上や優秀な人材を採用・確保しやすくなること、高付加価値な業務への集中なども、ワーク・ライフ・バランスを実現することによる間接的な効果として期待できる。つまり、環境保全やワーク・ライフ・バランスに対する企業姿勢が、顧客や株主のみならず、人材市場から見たブランド価値にもつながっていくのである。人にも地球環境にも配慮した労働環境を提供することが、今後の企業競争力を左右する人材力の強化にも貢献するということは、見落とされがちだが重要な効果と言えるのではないだろうか。

*  *  *

 以上、本稿ではグリーンITにおけるITによるエコの側面に着目し、その取り組みがもたらす経営上の効果について説明した。

 昨今の厳しい経済情勢を反映して、IT投資にも抑制のプレッシャーが強まってきている。このような時期には、新規システムの構築やリプレースといったプロジェクトが先送りされたり、戦略的なIT投資が縮小されたりする傾向が強い。

 しかしながら、たとえ不況下であっても、ITの戦略的な活用が企業の競争力の維持および向上に不可欠であることに変わりはない。本稿で述べてきたように、ITによるエコは、環境負荷を軽減するだけでなく、経営に貢献するさまざまな副次的効果を生み出す可能性を持っている。CSRと企業価値の向上に寄与する、社を挙げた必須の取り組みであるため、その予算の確保には合理性がある。その際、CIOは、ITによるエコへのイニシアチブと絡めて、業務効率の向上やワークスタイルの革新を提案することで、緊縮予算下にあってもIT投資を維持することに務めるべきである。



同じカテゴリー(エコ)の記事画像
ベロタクシーって?
同じカテゴリー(エコ)の記事
 ベロタクシーって? (2009-06-11 19:36)

Posted by 昏君 at 18:24│Comments(0)エコ
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

平田義信