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ITproより転載 (堀越 功=日経コミュニケーション) [2010/11/30]

「光の道」論争、重要なのはNTTの動きを早める視点

 1年近くにわたって通信業界を揺るがした「光の道」論争。「2015年までにブロードバンド利用率100%を目指す」というビジョンの実現方法を巡り、巨大NTTの組織形態を含めて議論は紛糾した。総務省のICTタスクフォースが打ち出した施策の骨子は、細部の詰めに物足りなさが残るものの、基本的な方向性は間違っていないと考える。最も重要なことは、NTTの動きを早めるという競争の視点と、非採算地域ではできるだけ効率化を図るという視点ではないか。

ソフトバンク構想が発端となった「光の道」

 まず、「光の道」論争とは何だったのかを振り返ろう。ことの発端は、原口一博・前総務大臣が2009年末に突然発表した「原口ビジョン」にある(関連記事)。ここで原口前大臣は、「2020年までにすべての世帯(4900万世帯)でブロードバンド・サービスの利用を実現」という目標をぶち上げた。その後、原口前大臣は2010年3月に開催された総務省政務三役会議にて「2020年では遅すぎる」として、普及率100%の達成の時期を2015年に前倒し、加えてNTTの経営形態を含む「光の道」の整備方法についてICTタスクフォースで検討するよう指示を出したのだ(関連記事)。

 「光の道」構想は、ソフトバンク陣営からのアイデアが基になっていると言っても過言ではない。記者も2009年末から、ソフトバンク関係者が「コンクリートの道から光の道」と連呼している場面に何度も出くわした。その直後、2010年1月の鳩山前首相の施政方針演説で、まったく同じ「コンクリートの道から光の道」という言葉が飛び出し、同年6月の政府の新成長戦略にも「光の道」構想が含まれた。やはり、ソフトバンクによる政府への積極的なロビイング活動が奏功したのだろう。

 そんな利害がぶつかり合う一通信事業者から飛び出た「光の道」構想だが、ビジョン自体は間違っていない。

 現在、全国の90.1%の世帯でFTTHをはじめとする超高速ブロードバンドが利用できるようになっている(2009年3月末時点、総務省調べ)。にもかかわらず、加入世帯は約35%にとどまっているのが実情だ(2009年9月時点、総務省調べ)。家の前まで超高速ブロードバンドが整備されているのに、加入が伸び悩んでいるのである。

 もう一つの課題は、超高速ブロードバンドにおけるデジタルデバイドの問題である。離島・へき地などの条件不利地域はコスト回収の目途が立たないため、どの事業者もインフラ整備のインセンティブが働かない。しかし本来、離島やへき地のほうが、超高速ブロードバンドを使った遠隔医療のようなアプリケーションを欲しているはずだ。

 つまり「光の道」構想とは、日本がADSLの時代と同様に、FTTHを中心とした超高速ブロードバンドの時代でも世界トップクラスのブロードバンド大国であり続けるための構想とも言える。

「競争重視」の結論を導き出したICTタスクフォース

 上記のようなレベルではNTTやソフトバンクなどの間でもビジョンを共有している。ただその実現方法を巡っては意見が対立した(関連記事1関連記事2)。

 最大の争点は、NTT東西のアクセス部門を分社化し、メタルを撤廃しつつ効率よく光インフラを整備しようというソフトバンクが示した案と、その他の事業者が主張した、従来通り事業者間の競争を推進して構想の実現を目指すという案だ。

 ソフトバンクの提案は、いわば計画経済的に光インフラを全家庭に引こうという考え。基本インフラは効率よく100%敷設してしまい、その上のレイヤーで競争しようという形だ。分社化によって独占性も強まるが、ソフトバンクの孫正義社長は「今だってNTT東西は独占状態。これまで対応に苦労した分、(自ら出資してでも運営したい)アクセス回線会社は徹底的に規制をしてもらって構わない」と強調する。孫社長は、「税金不要」「月額1400円で提供可能」というアクセス会社の効用を繰り返すが、NTTやICTタスクフォースの構成員から同社の試算に疑問の声が相次いだ(関連記事)。

 「光の道」構想の実現方法を検討してきた総務省のICTタスクフォースは、そんな議論を経て11月22日に施策の骨子を示した(関連記事)。ここで、3割にとどまる利用率を上げるために、競争を重視するという方向をあらためて打ち出した。料金の低下やサービスの多様化を促し、市場を活性化するという方向性だ。ソフトバンク案については「不確実性が高い」と突っぱねた。

 具体的には以下のような施策を掲げた。競争事業者が自ら光ファイバーを引いて競争する場合は、NTT東西が持つとう道や管路など、線路敷設基盤をさらに借りやすくするような方策を求めた。FTTHとモバイルの競争を促すために、モバイル向けの大胆な周波数再配分も実施する。競争事業者がNTT東西の光ファイバーを借りた競争をする場合は、これまで1芯単位でまとめて借りられなかった光ファイバーの接続料を、分岐回線単位(いわゆる1分岐貸し)での接続料設定に見直すべきではないかとした。

 NTTの組織形態については、NTT東西の設備を自らが利用する場合と他事業者が利用する場合で公平な競争環境を確保できるかどうかという観点でそ上に上った。その結果、骨子案ではNTT東西の組織形態について、構造的な措置が伴う「資本分離」「構造分離」、伴わない「機能分離」の3案について検討。構造的な措置に伴うNTT既存株主への影響や実現に至るまでの時間、コストを勘案した結論として、3案の中で「機能分離」が最も現実的とした。

 一方の離島やへき地などのインフラ未整備地域については、国や自治体が施設を設置し、民間事業者が運営を受託する「公設民営方式」にて、整備を進めようという方針を示した。

競争によってNTTの動きを早める

 ICTタスクフォースが打ち出した方針は、目標の年月の設定の記述が無く条件設定も甘い。「2015年に利用率100%」を保証する文言も無い。しかし記者は、冒頭にも述べたように基本的な方向性は間違っていないと考えている。

 まず、公社的にNTT東西からアクセス部門を別会社化するという選択肢は、現時点では弊害のほうが大きいと考える。都市部では、電力系事業者、CATVとNTT東西のFTTHと設備ベースの競争が成立しているエリアがある。さらに、LTEやモバイルWiMAXなどのモバイルブロードバンドが進展すれば、ワイヤレスと固定間の競争が広がるだろう。そうなると、光を専門とする独占的な会社を作ることで、逆にこうした競争が阻害される可能性がある。モバイルの急速な技術の進展とユーザーのニーズの高さを考えれば、FTTHがこれからのアクセス方法の主役になるかは不透明だ。ソフトバンク案のようなFTTHを専門に計画経済的に広げていく策は、逆に硬直した状態を招きかねないのではないか。

 なお、シンガポールやオーストラリアがアクセス専門の会社を使って光インフラの整備を進める方針を示しているが、これらの国と日本とは歴史的な経緯が異なる。シンガポールやオーストラリアではFTTHの敷設がほとんど進んでいないため、ゼロベースで効率的にインフラを敷設する考えも成り立つ。一方、日本ではNTT東西が自らリスクを取って1990年代から光ファイバーの先行投資を続けてきており、現状で9割近いエリアカバーに至っている。これから、ようやく投資回収の段階にあることを考慮する必要がある。既にある設備の利用率をできるだけ早く向上することが肝心だ。

1分岐貸しの検討に踏み込む

 ただ、NTTの動きを見ていると、時間をかけてでも確実に投資回収することを望んでいるように見える。ユーザーの立場からすると、現在の月額6500円程度のFTTHの料金をできるだけ早く安くしてほしいと感じる。せっかく世界でもまれに見る充実した環境が目の前に来ているのに、ユーザーに使われないのは非常にもったいない。

 そんな時計の針を早めるためには、やはり競争の促進は欠かせない。競争によって値下げ圧力をかけて、需要を増やしていくことで、利用率が3割にとどまっている設備の稼働率を高められるだろう。

 その点で、これまでNTTの反対から導入が見送られてきた(関連記事)光ファイバーの1分岐単位での貸し出しに踏み込んだことは、これまで設備ベース一辺倒だったFTTHの分野に新たな競争を生み出す可能性がある。FTTHサービスのNTT東西のシェアは、2009年度末時点で74.4%。しかもシェアは増加傾向にある。全国規模でのNTT東西との競争は、KDDIやソフトバンクも音を上げている状況だ。全国規模でFTTHの競争が進展しているとは言い難い。

 NTT以外に設備を投資済みの事業者との公平性の整理は必要だが、1分岐単位の貸し出しは、競争事業者にとっての投資リスクをより低くしながら低料金でユーザーにFTTHサービスを提供できる状況を作り出せる。1分岐貸しは、かつてソフトバンクの孫社長も強く要望していた。ソフトバンクも、ぜひここで競争してほしい。NTTとしても、せっかく自らが設備を打ったのであるから、他社に取られまいとユーザー獲得にこれまで以上に力を入れるだろう。ユーザーにとっては歓迎すべき状況だ。他事業者との公平な競争条件を確保したうえで、このようにNTTの動きを早めるような施策を打つことが最も効果的なのではないか。

「FTTHをADSL並みの料金に」と攻めの姿勢を見せ始めたNTT

 実際、NTT持ち株会社の鵜浦博夫副社長は、11月24日に民主党の情報通信議員連盟が主催したヒアリングの席で、「できるだけ早くFTTHの料金を現在のADSL並み(月額3500円程度)にしたい」と発言した(関連記事)。このようにNTTも、競争的な姿勢に変わり始めている。これも「光の道」論争の副産物と言えるだろう。

 なお、離島やへき地などのインフラ未整備地域のエリア敷設については、市場原理が働かないために、何らかの補助金はどうしても必要になる。タスクフォースが示した「公設民営方式」はその一つの手段であるが、補助金を使っているからこそ、できるだけ効率的にインフラを敷設・運営するための条件を付けるべきではないか。人口の集積度合いによっては、FTTHではなくモバイルブロードバンドのほうが設置・運営コストを安くできるケースも出てくるだろう。

 ICTタスクフォースは11月30日夕方に開催される会合で、「光の道」構想実現に向けた最終報告書をまとめる。基本的には上記のような骨子がベースになる見込みだ。特に、どの程度まで数値の目標が含まれるのか注目したい。

 「光の道」構想は、今後、法案という形で国会に舞台を移してこれからも実現に向けた議論が進むだろう。日経コミュニケーションでは2011年1月号の特集として、「光の道」構想によって見えてきた、これからのブロードバンドの姿、課題などをまとめる予定だ。こちらも、ぜひ期待していただきたい。




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Posted by 昏君 at 18:32│Comments(0)電子行政
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